ショートショートssTopicギャラリー2:創作ひろば「もな歌」

遊びながら仮想通貨モナコインをゲット!
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[常設] ショートショートssTopicギャラリー2
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気に入った作品には是非とも投げMONAを!(^O^)/

42 :iNAO五段:2015/04/10 00:18:47 ←送る

 いつかの過去:春

 ある日B氏は道端に座り込む少年を見かけた。その傍らには「交換屋」という札が立っている。
「交換屋というのは何を交換してくれるんだい?」B氏が尋ねた。
  少年は無言でB氏を睨むとバッグから形の整った桜の花を取り出した。
「それに見合うものを渡せということかな」
「金」少年が呟いた。
  B氏は肩を竦める。ポケットを探ると、一枚の紙が指先に触れた。彼は少年にそれを差し出す。少年は眉根を寄せてB氏を睨んだ。
「これはペーパウォレットと言って、紙幣のようなものだ」
「いくらになる?」
「さあ……でもいつか、これ一枚で愚痴を聞いてもらえるようになるかもしれない。これは、そういう可能性を秘めているんだよ」
  少年はB氏とペーパウォレットを交互に見る。すると少年は桜の花を差し出した。
「交換成立ということで、いいのかな」
  B氏は笑みを浮かべてペーパウォレットと花を交換する。立ち去ろうとすると少年が立ち上がった。
「monacoinで調べてごらん。その中には1Mona入っているから」B氏は言う。
  桜の花を弄りながら去っていく彼の背中を少年は姿が見えなくなるまで見届けた。
 
43 :太刀鋼二段:2015/04/11 00:25:40 ←送る

ふらりと視界がゆれた次の瞬間には、いつもの灰色掛かった街並みとは程遠い、極彩色の奇抜な世界に目眩がした。
あまりのことに世界が歪んで見えるのか、はたまた、もともと世界が大いに歪んでいるからそのように見えるのかは分からないが、いずれにしても到底視力には良い景色とは思えない世界は、ギラギラと輝きを増しながら私の眼床を焼いている。
そもそも、ここまで鮮やかに彩られてしまっては私自身が立っているのか、座っているのかすらどうにも判断がつかない。只ひたすらにチカチカと眩くうねるような景色、というものに圧倒されて言葉もないのだ。

急に激しい頭痛と吐き気に襲われて、私はその場でもどした。目を閉じればまるで激しく回転しているかのような、ひどく平衡感覚が狂った状態であることに気づく。

フラフラと両手を地面に添えて座り込み、アスファルトの感触に気付いて目を開ければ、そこはいつもの寂れた路地裏だった。


46 :iNAO五段:2015/04/13 22:45:25 ←送る

 その悪魔の名は

D氏はmonacoinのマイナである。彼は熱と音を発する大量の機材を眺めてため息を吐いた。
  彼が初めてmonacoinに触れたときはまだ今の機材で十分な量の採掘を行うことができたのだが、最近はそうもいかなかった。
「どうにかならないものか……」D氏はパソコンでシェアを確認すると再びため息を吐いた。
  すると採掘に使用していないパソコンの画面から悪魔が現れる。突然のことにD氏は腰を抜かした。
  悪魔は採掘用の機材を一瞥し、口元に笑みを浮かべるとD氏を見る。
「初めまして。Dさん。あなたがmonacoinの採掘を行っていると聞いて、伺いました」
「今時の悪魔はそんなことも知っているのか」D氏は悪魔が現れたことよりも仮想通貨を知っていることに驚く。
「何か問題でも?」悪魔は小首を傾げる。「地獄もこちらと同じように不景気でしてね。我々も仮想通貨を利用しているのですよ」
「なるほど。それで、俺のところに出てきたのは何故だ。理由があるのだろう?」
  悪魔はゆっくりと口角を吊り上げた。
「あなたの機材を採掘シェア、ナンバ・ワンにしてあげましょう」
「どういうことだ」D氏が悪魔に問う。
「簡単なことですよ。あなたの機材で最もmonacoinが採掘できるようになるということです」
「その代価に魂を持っていかれるとか、そういう落ちだろう?」D氏は訝しんだ。
「いえいえ。あなたは健康に長生きしますよ」
「じゃあ電気代が馬鹿に高くなるのか」
「電気代はさほど変わりません」
「なら、俺が一位の間、おまえたちはどうするんだ?」
「我々が今現在所有している機材を休息させます。もちろん、あなたの機材の採掘量を抜かない程度にですが」
  しばしD氏は俯いて黙考し、やがて顔を上げた。「いいだろう。その提案、受けようじゃないか」
「では、契約成立ですね」
  悪魔が手を差し出してくる。D氏がそれを握ると悪魔は満面の笑みを浮かべた。
「最後に名前を教えてくれないか」
  D氏が尋ねると、悪魔は自身の名前を耳打ちする。そして次の瞬間、悪魔と、D氏の部屋にある機材がすべて消え去った。
  今も彼の下には機材があった頃と同等の電気代の請求が届く。
  きっとあのGura(あくま)の部屋で採掘に使われているのだろうとD氏は思っている。


48 :太刀鋼二段:2015/04/14 13:10:00 ←送る

ぱらぱらいう雨音が屋根を叩く。

今日は何も予定がないから、天気を気にする必要はない。けれども、窓越しに見える空模様をそれとなく気にかけてしまうのはなぜなのか。

本を読む手を止めて、ぼうっと曇り空を眺め入る。

子供の頃は、雨が降ってもそれほど気にならなかったように思い出す。傘と黄色い長靴を泥んこで汚しながら、流れる雨水を堰き止めて遊んだものだ。さらさらと流れる砂質の土を、粘土質の土で固めてダムを作り、さも芸術大作を拵(こしら)えたかのように満悦していた。

やがて雲の切れ間には光が差し込んで、シャワーのように空を彩る。本に目を向けると、再びページをめくり始めた。

ーーワタシの人生は今どの辺りなのか。

半分ほど読み進んだ本を手に、そんなことを考えながら。


49 :太刀鋼二段:2015/04/15 19:01:02 ←送る

 失敗

あぁっ!

また、やってしまった!

ほんの少し注意していれば直ぐにでも気付けたミスなのに、いつもいつも失敗してしまう。今回の脱字にしたって、先ほど見直した筈なのにこの為体(ていたらく)だ。

アップしたばかりの投稿を見ながら、冒頭の脱字に自責の念にかられる。まったくこんな自分には、ほとほと嫌気が指す。

昔から些細な事を気にしない大雑把な性格が災いして、ちょくちょく見落とすことが多かった。
道を歩けば擦り傷や服のほつれがいつの間にか増えていて、何かを二つ以上抱えると、何か一つは忘れてしまう。
忘れ物も多く、財布や鍵・傘を忘れることなどしょっちゅうだ。先日も会社にメガネを忘れてしまって、自宅で作業するのに大いに難儀したところだ。

…気を付けなければらならい。


51 :アリス五段:2015/05/04 22:24:38 ←送る

最近、動物園に行った時のお話(実話)です。
外国人の親子が、色々な動物を見ていました。
子供が、「あれは何?」と聞くと、親御さんが「あれは〇〇だよ」と、〇〇の部分を流暢な英語で答える姿は微笑ましかったです。
で、ある檻の前に子供が走って行って、「あれすごく面白い!」と言ったんです。
で、母親が「この子はホースを見て喜ぶなんて、変わってるわね」と言いました。
馬を見て喜ぶのがそんなに変わっているのかと思って、私もその折の中を見てみると
中に居たのは「horse(馬)」ではなく「hose(水などを通すホース)」でした。


52 :ボウメ六段:2015/05/05 01:08:36 ←送る

 人生の線引き

誕生の点から息絶える点まで、その位置は決まっている。
その2点を貴方は好きに結ぶことができるとしよう。

ある者は一直線に線を引き、心地よい疾走感と共に息絶えた。
ある者は何度も曲がり曲がった線を引き、充実した表情で息絶えた。

さあ、君はどんな線を引いてくれるのかね。


55 :iNAO五段:2015/05/07 23:54:16 ←送る

群馬県で列車に接触した男が一人死亡した。
事故が起こったのは高さ四十メートルほどの谷間に掛かる高架橋上だった。
乗客の証言によれば男は線路上を歩いていたのではなく谷底から棒高跳びの棒を使って飛び上がって来たという。
谷底を調べてみると確かに折れた棒が発見されたが、繋げて見たところ競技用のそれとなんら変わらない長さであった。


56 :iNAO五段:2015/05/23 23:46:38 ←送る

 L氏と絵画

 聡明なL氏のもとに儲け話に目がない友人が訪ねてきた。友人に連れられてL氏は近所の喫茶店に入る。
  上機嫌な友人を見てL氏は何があったのかと訊ねると友人は自慢げに語った。
「日本で行方不明になっていたベクシンスキーの絵を一枚手に入れられることになったんだ」
  友人はスマートフォンに保存された証拠の写真をL氏に見せる。その絵画は確かにベクシンスキーの画風に似ていた。
  額縁にはめ込まれたその絵はポーランド語で「闇」を意味するタイトルが付けられている。
「今ならこの絵を五千ドルで買えるという話があるんだが、今ちょっと手持ちがなくてね。そこで君に少し協力をしてもらいたいんだよ。もちろん、絵が売れたときには利益の半分を君に渡す」
  L氏はしばらく写真を見ていたが、スマートフォンを友人に返し、席を立った。
「待ってくれ、何が気に入らなかったんだ」友人が言う。
  L氏は振り向いて指摘した。「君がベクシンスキーに興味がないということと、その絵は九分九厘、偽ものだということかな。騙される前に手を引いたほうが良い」

  L氏は何故、絵画が偽ものだと断定したのだろうか?


57 :iNAO五段:2015/06/03 23:18:24 ←送る

 梅雨の逢瀬

 夕方のビルの入口で雨宿りをしていたO氏は見知らぬ女性に肩を叩かれて振り向いた。
「傘が、ないのですか?」女性はO氏の風体を一瞥して首を傾げる。
「ええ。でもこの雨脚なら時期に止むでしょう」
  雨はO氏が入口に来た時よりも弱まっていた。
「あら、さっき見た天気予報だと、このまま夜まで降り続けるそうですよ。ほら」
  女性は持っていたハンドバッグから情報端末を取り出すとO氏に見せる。
「……どうやらそのようですね」
  O氏は頭を掻く。今日は顔も知らない許嫁との顔合わせの日だった。幸い、連絡は済ませてあるので先方に迷惑が掛かることはない。
  どうしたものかとO氏が空を見上げていると女性が再びO氏の肩を叩いた。手には折り畳みの傘を持っている。
「一緒に入っていきませんか?」女性が言った。
「そういうわけには……その傘は小さいでしょう」
「でも、一つの傘で二人がずぶ濡れにならないのは、素敵なことだと思いませんか?」目を細めて女性が艶やかに笑った。
  女性は傘を差すとビルの外に足を踏み出す。そしてO氏に向かって手招きをする。その少女のような振る舞いにO氏は笑みを浮かべた。
 湿った空気を割くように肩を寄せ合って二人は雨の中を歩く。O氏の懸念通り傘は小さくお互い窮屈な格好をしている。
「狭くないですか?」女性がO氏を見上げた。
「ええ。傘、持ちますよ」
  O氏は女性から傘を受け取り彼女の方へと傾ける。それから駅までは他愛のない会話をした。言葉を交わすたびにO氏は女性をとても魅力的に感じていた。
「結婚のご予定があるんですね」O氏が言った。
「ええ。まだ顔も見たことがないのですけれど、とても素敵な方だとお聞きしております」
「それは羨ましい。こんなにも可憐な人と結婚できるなんて……あ、可憐なんて、ちょっと気取ってましたかね」
「いいえ。とても素敵だと思います」
  やがて、駅に着く。O氏が濡れたスーツについた水滴を払っていると女性がハンカチを差し出してきた。
「お使いになってください」
「大丈夫ですよ。これならすぐ乾きます」
「将来の夫がそんな恰好では、示しがつきませんもの」
  O氏は眉根を寄せて女性を見る。
「初めまして、Oさん。私、Qと申します」女性は小さく頭を下げる。
  その名前は、O氏がこれから会う予定の許嫁と同じだった。


59 :iNAO五段:2015/06/09 23:15:02 ←送る

 親知らず

 寝台列車の二段ベッドの下の段で僕は寝ている。列車の振動から来るまどろみと戦いながら、この間生え終わったばかりの親知らずを舌で弄っていた。
「ねえ」
  上の段で寝ていたらしい少女が僕のいる下を覗き込み声を掛けてくる。
「あんた。親知らず生えたでしょう」
  歯を剥き出して笑う少女の歯は溶けていて、矢じりのように尖っていた。
  こうなりなくはないなと思いつつ、僕は少女の質問に答える。
「うん。それがどうかした?」
「気を付けなよ。親に生え終わったことを知られたら、抜かれるから」
「何だって?」
  僕が聞き返すと、少女はくすくすと笑いながらベットの上へと体を戻した。カーテンの閉じる音が聞こえた。
  少女が何を言ってるのか分からなかったが、僕はベッドから降りると家にいるはずの家族に電話をする。
「あ、父さん」
  電話に出たのは父さんだった。どこか息が荒いように感じられる。
「ああ……、お前か。どうだ、旅は楽しいか」

「うん。楽しいよ。ねえ、父さん。もし僕に親知らずが生えてたらどうする?」
  僕の質問と同時に、ヒッと電話越しの父さんが情けない声を上げる。目を見開いて驚愕しているような気がした。
「お前……、生えたのか? ああ、いや、答えなくて良い。答えなくて。親は知ってはいけない。いけないんだ」
  早口に、自分に言い聞かせるように父さんが言う。声も震えていた。
「昔。そう、昔の話なんだが、その……、が生えたことを親が知ると、災いが起ると信じられていたんだ。それを解くには、それを、抜かなくちゃならなくて……。もちろん、俺は信じてない。だが、まだお前のばあちゃんとかは信じててな……」
  そこまで聞いたところで電車がトンネルに入る。轟音が電話を聞き取り辛くする。電話の向こうで父さんが叫び声を上げているのが聞こえた。それに混じって母さんの金切り声も聞こえる。
  何があったのだろうかと思い、僕は受話器に話し掛ける。
「どうしたの? 父さん!」
  電話はそこで切れてしまった。もう一度掛けようと財布に手を伸ばす。肩に手を置かれ、振り向くとそこにはさっきの少女が立っていた。
「何か用?」
「あんたの親父、あんたに親知らずが生えたことを知ったね? 不幸が起こる。だから、その前に……」
  口を大きく開けて甲高い笑い声とともに少女は姿を変えていく。それは段々としゃがれた声になり、僕の良く知っている祖母の姿になった。
  大きく開けた口の中に、親知らずは見当たらなかった。


61 :iNAO五段:2015/06/27 22:57:36 ←送る

 動く

 大きく荘厳な雰囲気の門の前で神の判決を待っている男がいた。
「判決を下すまで、静粛にせよ」神が訊ねた。
「はい」男が震えた声で返事をする。死ぬまでの所業を思い返してみると、善人とは言い難かった。
  神は帳簿のようなものをめくり、男の顔を見る。
「お主は、上だ」
「上?」男は見上げる。見えるものは空だけだった。
「そう、上だ」神は男を一瞥すると人差し指で天井を指す。
「やった!」
  男は喜び、小躍りする。空には天国があると幼いころから聞かされてきたからだ。
「ま、本人が喜ぶなら良いけどね……」傍らにいる男を連れてきた天使が呟いた。
「何言ってるんだ? 上と言えば、天国じゃないか!」
  興奮気味の男に天使は目を細める。
「あんたは知らないだろうけど、この間、天国と地獄は入れ替わったんだよ、今は、下が天国で、上が地獄だ」
  門が音を立てて開き、言葉に出来ないおぞましい光景が男の目の前に広がった。



68 :とと_一行詩の読み手三段:2015/07/02 09:35:43 ←送る

 いつもの平日とバカ兄弟

目覚ましの音って起きにくいよね。
なんて言い訳を口に出すわけでもなく遅めの朝食を口に運ぶ。

食卓には僕の茶碗以外にもう一つの茶碗が置いてあった。まだ今日は使われてないっぽい。
寝坊助の僕以上に寝坊助の年の違わない兄の茶碗だ。

朝食を食べ終わると自分の部屋…もとい、男部屋に戻る。兄がまだ布団で寝ている。
まあそのうち起きるだろうと無視して自分の食器を洗う。

「ああその日うちの猫が家に一人なんで早めに帰るので欠席でお願いします。」

リビングでスマホでツイッターや掲示板を漁ってから、ふと気になって部屋に戻ってみる。
…案の定まだ寝ていた。頬をぷにぷにしてみるが返事なし。
目覚ましも効かない。どうすれば起こせるか…。

「…お兄ちゃんの寝坊助(小声」

耳元で囁いてもピクリともしない。わかったのはアニメの起こし方は当てにならないってことだった。

起こすのを諦めてパソコンをつける。そのうち起きるだろうけど、起こし方でも調べてみるかな。
バカだけど、同じ部屋の兄ちゃんのためだから、ね


71 :iNAO五段:2015/07/13 23:57:04 ←送る

 蝉

 うだるような夏の日、一匹の蝉を捕まえた。生まれて初めてのことだった。
  あまりの嬉しさに篭に入れて観察をする。寝転がっているところを母に笑われた。
  しばらくそうしていると、兄が現れた。見るからに不機嫌だった。
  兄は私を見るなり、篭を奪うと、中から蝉を取り出し、翅を毟り、脚を毟り、最後には腹を潰した。一通り蝉を破壊すると満足したのか兄は地下の自室に戻る。
  私は蝉だったものを丁寧に庭に埋葬してやる。もしかしたらまだ生きていたのかもしれないが、どうせ死ぬからには手厚く葬ってやってほうが良いと思ったのだ。
「可哀そうに。私に捕えられたばっかりに」そう言う私は涙を流していた。何もできなかった自分が情けなかったのか、それとも蝉の死に悲しんでいたのかはわからない。
  上から土を掛ける時、蝉が唸るように一鳴きした――気がした。腹も翅もない蝉が鳴くはずはない。きっと他の蝉の鳴き声と錯覚したのだ。
  兄は浪人だった。今年で七年目になる。その日の夕食時に父は兄を蝉に例えた。曰く「七年土の下にいても空を飛ぶときは来る」とのことだった。
  兄は昼間のことを思い出したのか、ただ押し黙ってその言葉を聞いていた。虫が好かなかったのだろうが、父の前でそれを出すわけにもいかなかったのだろう。
  翌日、兄は死んだ。転落死だった。兄の部屋である地下室と地上との境目にある階段を踏み外して死んだという。
  葬儀の日。兄の躰が火葬場で焼かれることになった。棺に入った兄が焼かれ始めると、蝉の鳴き声がどこかから聞こえた。聞き間違えようもなく、あの時、土を掛けるときに聞こえた鳴き声だ。
  火葬が終わり、棺が取り出され、蓋が開かれる。その中に兄の骨はなく、バラバラになった蝉の死骸だけが残っていた。


75 :名前をください。五段:2015/09/09 12:50:4 ←送る

 「わたしを忘れないで」

唐突な話であるが、人類文明は滅亡の危機に瀕していた。
それは、穏やかな日の夕方のことであった。誰もがいつもどおりの今日を終えようとしていた頃、「それ」が空の向こう側から飛来したのだ。
「それ」は人類文明が観測したことのない大きさをした生命体であった。しかし、その大きさから初めは誰もがそれを生命体だとは思わなかった。
だが、そんな人類文明を驚かせようと意気込むように「それ」は活動を始めた。
そこからはよくある話である。凡ゆる兵器は「それ」を倒せず、「それ」が放つ凡ゆる光が人類文明が生み出した諸々の多くを壊滅させた。
無慈悲に、そして理不尽に人類文明を蹂躙する「それ」に、人々はただ恐怖と惨めな命乞いをするのみであった。

「それ」が活動を開始してから数ヵ月後、突然「それ」は活動を静止し、何らかの力によって人類に「言葉」を発したかと思うと、何事もなかったかのように空の向こう側へと飛び去っていった。
そして、多くの文明の活動器官を破壊された人類文明であったが、辛うじて生き残ることとなった。
その記憶の多くに「それ」の恐怖と「それ」が残した不可解な「言葉」を深く刻み込みながら。



77 :iNAO五段:2015/09/10 00:38:17 ←送る

A「Bちゃん、ここは?」
B「Ask MonaのSSトピね。ショートショートを書いて、モナを貰うトピックよ」
A「へえ、そうなんだ!」
B「しかも今なら、先着五名に1モナをプレゼントしているの。詳細は>>62や>>63を参照してね」
A「ふむふむ……あれ、もう三つも作品があるよ?」
B「ええ。つまり、あと二つ、SSが投稿されたらこの新規参入キャンペーンは終了ね」
A「それじゃあ急いで書かなきゃ! えーと……うーんと」
B「そんなに焦らなくても大丈夫。……このトピに人が来ることは滅多にないから」
A「それ、言ってて悲しくならない……?」


79 :名前をください。五段:2015/09/14 23:19:43 ←送る

「青い花の精霊」

昔々、仄暗く静かな森に名もない精霊が棲んでおりました。
精霊は深い青の艶やかな髪と水晶のような瞳を持ち、その姿を見たものは忽ち恋に落ちてしまうような美しさでした。

ある空がほんのり赤い日に、花を摘むためにやってきた人間の王がその姿を見てしまい、心を奪われてしまいました。
王は精霊に愛を伝え、どうか自分のことを好きになって欲しいと願います。
ですが、精霊は人間の愛を受け入れると、言葉を失い心と同じく身体も愛に縛られて、何もできない一輪の花になることを知っていました。
ですから、精霊は王の愛を拒絶しました。精霊は今の静かな生活を愛してしたのです。
なのに、王は毎日のように精霊の元に通うようになりました。
ある日は花を持って、ある日は美しい宝を持って、ある日は旅人から聞いた話を持って、精霊を喜ばせたい一心で通いつめていました。
そんな王に、いつの間にか精霊も心を開き、愛らしい笑顔を見せるようになっていました。

空が少し灰色がかった日を境に、王が精霊の元へこなくなりました。流離いの悪霊の呪いに罹ったのです。
人間たちの話を聴いてそのことを知った精霊は、森を抜け出して王の元へ向かいました。
精霊が駆けつけた時には、今にも命を失いそうなほど弱々しい息遣いで横になる王の姿がありました。
傍に駆け寄ると、王がこちらを向いて微笑みかけます。
精霊は王に訊ねました。

「あなたは、私の何を愛しているのですか。」

すると、王は答えました。

「最初は、その深く青い髪を好きになりました。」
「次に、あなたの笑顔と、あなたの心を好きになりました。」
「そして、あなたの見る景色と、あなたの笑顔を好きになりました。」
「最後に、あなたを好きになりました。他でもない、あなたを愛しています。」

精霊は、その髪と対照的に顔を赤らめると、王の髪に触れて言いました。

「あなたは、私を愛してくれなくなるかもしれません。でも、私はあなたを愛します。」
「ずっとずっと、いつまでも。」

そして、王にそっと口づけをしました。
それはあらゆる呪いを解く祝福であり、精霊の確かな愛の証でした。

こうして、王の呪いは解かれ元気を取り戻してゆきました。
しかし、いつまでも妻子を持つことをせず、ついには養子を迎えて次の王としたのでした。
そうして、その人生の終わりまで仄暗く静かな森で暮らしたとのことです。

その王の傍には、いつも一輪の青い花が咲いていましたとさ。



83 :名前をください。五段:2015/09/15 ←送る

「進化促進者」

遥か昔の地球に植物系知性体が降り立ち、繁殖していた時期があった。
彼らは自分たちを宇宙の大いなる意思が生み出した生命進化を促進させる偉大なる使命を持っているという信仰を持っており、今までも数々の星で生命進化の促進を成し遂げてきたのである。
その生命進化が促進された星の末路は棚に上げとくとして、ともかく彼らは地球においても、他の星と同じように使命に従って生命進化の促進を行っていたが、何らかの要因によって滅びてしまった。
今ではその死骸は黒い液体として地下から採掘され、エネルギー資源として利用されているのは有名な話である。
あるものは言う、彼らは滅びたのではなく、これこそが彼らの進化促進の最終段階であると。
またあるものは言う、私たちが私たち以外の知性体に出会わないのは彼らの進化促進の賜物ではないのか?と。



84 :名前をください。五段:2015/09/16 07:14:33 ←送る

「人間の定義」

みなさんはかの有名なロボット三原則をご存知であろうか?
ロボット三原則とは、あるSF小説家が考え出したロボットの根源的な行動基準のことである。
内容はとてもシンプルで、そして一貫している。要約すると、「人間のために働き、人間のためだけに死ね。」というものだ。
ところで、彼の描いたある小説に出てくる陽電子頭脳を備えたロボットたちは何処か間が抜けてて人間味がある。
三原則の三つの軸の間で揺れ動き、時には酔っ払ったように喜歌劇の歌詞を発信したり、時には対応に困るとあわあわと”指”をこねくり回してみたり、時にはただの発電機を絶対なる創造神だと信じ込んだりしていた。

しかし、私たちの世界のロボットはそんなにお茶目さんではなかった。
今現在の人類、つまり私たちの棲息域は、かつての半分以下にまで減少していた。
空には金属の皮膚を有する鳥が跳梁跋扈し、地上の何もかもを焼き尽くし、そしてその焼け野原の上を金属の象が踏みしだき、焼けぞこないの人間たちを弾き殺している。
どうしてこんなことになったのか?事の発端は量子頭脳のプログラマーの一人にあったと言えよう。彼は少し夢見がちで少し人間のことを勘違いしていた。
私たちの世界のロボットにもロボット三原則が備え付けられるとこととなったのだが、そのためには色々と下準備をする必要があった。
その一つに、「人間の定義」があった。りんごがどういうものかを知らずにりんごの絵を描ける者がいないように、人間がどういうものであるかを知らずに人間のためだけに死ぬのはロボットたちには不可能だったからだ。
そこで、「人間の定義」をプログラミングすることとなったのだが、顔認識を使ってある基準に達せば人間であるとすれば良いところを、何を思ったのかそのプログラマーは英雄的な人物像をその定義に当てはめてしまった。
そうしてそのような基準を量子頭脳に刻み込んだ結果、ロボットたちはある答えを導き出したのであった。
そこからのことは言うまでもあるまい。



92 :名前をください。五段:2015/09/22 06:32:10 ←送る

「なまえのないかいぶつ」

私は名前のない怪物、この通り、名前はない。
私に名前が無いのは当たり前のことだ。だって、人々には私の姿は見えないし、人々は私に触れないのだから。
それだけじゃない。私は何者にも触ることができない。
美しい花を撫でることも、憎い悪鬼を成敗することも、その手でこの眼を潰すことさえできない。
私はただここにいるだけ。こことは何処でものことであり、つまり私は何処にでもいるだけの存在だ。
いつからいるだけなのかは覚えていない。気がついたらいるだけだった気がするし、何かきっかけがあったような気もする。
遠い昔に、寂しかったような覚えがあるが、それも気のせいだったかもしれない。

私は世界を眺めるのが好きだ。というか、それ以外何もすることがない。だから好きになることにした。
世界は色々な影で組み立てられている。そしてそんな鮮やかな影は様々に形を変えて、私を飽きさせることはない。
耳をすませば音が聞こえる。ただの空気の震えのはずなのに、驚くほどに音は私の心を共振させる。
この世界は素晴らしい。素晴らしいが、それだけだ。
私の心は冷め切っていた。だから、影や音で容易く熱せられる。
でも、熱を維持することはできない、すぐに冷め切ってしまうのだ。
私はからっぽだった。この身体が世界に触れられないように、この心もまた、透過する世界の瞬きしか捉えられない。
どれだけ瞬きで満たそうとも、いつもどこかの瞬間で、私はからっぽだった。

私は人間が好きだった。彼らはいつも騒ぎを起こし、私に様々な瞬きをくれた。
自分を怪物だと思い始めたのも人間の影響だった。
私は自分の姿を見たことはないが、人間の条理には反していると思ったし、それに私のような存在を私は見たことがなかったからである。
彼らを見ているのは飽きなかった。だから、人間がたくさん増えてから、私は人間を眺める時間がとても長くなった。
そんな彼らの中に、私を指差してこう言ったものがいた。
「怪物だ!ここに怪物がいる!!」
私はとても驚いた。私はいままで誰かに指を指されたことはなかったし、誰かに姿を見られたこともなかったからだ・
最初は後ろを振り向いて、誰かいるんじゃないかと疑ったりもしたが、誰もいなかった。
私はとても嬉しくなった。なんで嬉しいのかもわからないぐらい嬉しくてたまらなかった。
私は彼に話しかけた、とてもとてもたくさん話しかけたが、彼は何も返さずにただ部屋の隅で震えていた。
残念なことに、彼には私の声は聞こえていないらしい。だけど、私の姿を見てくれるだけでも私は嬉しかったので、私は大いに彼に見てもらうことにした。

彼が部屋の隅で震え始めてから三日が経った。人間を見続けて長い私は彼がおかしいことに気づいていたが、どうしようもなかった。
だって、私は彼に触れることもできないし、彼に話を聞いてもらうこともできないんだから。
ただ、彼が寂しくないように傍にいた。ただ傍にいた。
すると、彼の部屋のドアを、数人の人間がけたたましく開けて、彼を怒鳴りつけた。
どうやら、彼は仕事も休んでひたすら部屋の隅で震えていたらしい。
人間の一人が彼の腕を掴むと、涙と恐怖でぐしゃぐしゃになった彼の顔が見えた。とても怖がっている。
彼が叫ぶ。
「ここに怪物がいるんだ!この部屋に怪物がいるんだ!!」
するとまた、人間が彼に怒鳴った。
「だから再発する前に診察に行けといったんだ!」
人間たちの話を聞いていると、彼が病気なんだということがわかった。
明瞭な幻覚を見て、怯えてしまう病気。人間たちの話から考えると、そんな病気のようだ。
私は少し悪いことをしたのではないかと不安に思っていたが、私は何も関係ないらしい。
心にあったものが、抜け落ちた気がした。

そして、そこで初めて私は瞬きでないものが心にあったのだと自覚した。そして、それがあった間、私は寂しくなかったのだと理解したのだ。
故に、ずっとずっと、私は独りで寂しかったということが、やっとわかった。
心がからっぽなことが、冷め切っていることが寂しさなのだと、理解することができた。
ふらりと、私は彼の部屋を出て行く。前と同じ状態に戻っただけ、というよりも、最初から何も変わっていないのに、私はとても寒い気がした。
私の心がこれほどまでに繊細だったことを知った私は、空を見上げる。
かつて私がそうであったように、この記憶もまた、時とともに風化していくのだろうか。
それはきっと、救いとなるのかもしれないが、何処か、悲しい気もする。
人間を見て、私の心はとても揺れ動いている。このことを大切にしたい。このことを忘れたくない。
そう願いながら、閉じることのできないこの眼で、私は空を見上げ続けた。
私は怪物、名前のない怪物。いつか、誰かに名前を付けて欲しい。そんな怪物。

「それにしても、前に発病したときは怪物から逃げ回ってて随分と探したのに、今回はなんで部屋に閉じこもってたんだ?」
「誰かが、傍にいてくれた気がしたんだ…。だから、部屋にいれば、安全だと、思ったんだ…。」
「誰かって?」
「わからない…。透明で…見えなくて、触れれない…何か…。」
「重症だな。」
「…どことなく優しい何かが、いてくれた気がしたんだ…。」




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